2018年2月-70年前の「#MeToo」

70年前の「#MeToo」

映画とTV番組に与えられるゴールデン・グローブ賞の2018年授賞式が注目を浴びた。ハリウッドで相次ぐセクハラを受け、約300人の俳優たちが抗議の意思を込めて黒いドレスとスーツ姿で出席したからである。
 アカデミー賞受賞映画を手掛けてきた大物プロデューサーのセクハラ疑惑が報じられると、「#MeToo(わたしも)」と被害者が次々と名乗りを挙げた。女性の社会的地位が高いと「信じられてきた」米国ですら、セクハラの被害は声を挙げにくいのかと妙に納得した。
 話は70年前の日本に移る。日本で女性議員が初めて誕生した直後の1948年、国会を揺るがす騒ぎがあった。年の瀬の12月13日、 第二次吉田内閣の泉山三六蔵相(当時52歳)が、衆院予算委員会に泥酔状態で出席した後、議員食堂前で女性議員の山下春江さん(同47歳)に抱きついてキスを迫った。蔵相は抵抗されると、なんと山下さんのアゴに噛みついた。
 新聞はこの立ち回りを「国会キス事件」と騒ぎたてた。戦後日本では「セクハラ」の先駆けかもしれない。泉山さんは翌日、蔵相のみならず議員も辞職。今から考えるとかなり潔い「出処進退」ではないか。だが話はこれで終わりとはならない。
 被害者の山下さんは日本初の女性国会議員の一人。柔道二段のほか空手と「なぎなた」の有段者だったそうだ。彼女も酒豪の評判があり「一緒にはしゃいでいた」とのうわさが流れ、翌49年の総選挙で落選。
 一方、加害者の泉山さんの方は「大トラ大臣」として知名度が上がり「かえって人気は高まった」(Wikipedia)。50年の参院選挙で全国区から立候補し7位で当選、参院議員を2期務めた。その後『トラ大臣になるまで 余が半生の想ひ出』と題する本まで出している。
 セクハラ加害者に同情が集まったのは、そもそも「セクハラ」概念のなかった牧歌的時代のためか。あるいは、酒飲みの狼藉に寛容な日本社会の特殊性のためか。ハリウッドの疑惑の多くは、大物プロデューサーの女優に対する「パワハラ」でもあった。だから被害の声を挙げにくかった。
 ゴールデン・グローブ賞の授賞式。監督賞の授与で、黒のドレスに身を包んだ女優のナタリー・ポートマンがプレゼンターとして登場し「候補者を読み上げます。全員、男だけどね」と発表すると、大拍手が沸き起こったそうであります。「神か悪魔か」「善か悪」かの一神教的二元論が大好きなハリウッド映画の文法。男と女も二元論で論じるとすれば、なんとも乾ききった世界ではないか。(了)

オットット爺や

2018/01/24 | カテゴリー:オットット爺やのつぶやき

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