2019年6月-「敵」なしでは生きられない

「敵」なしでは生きられない

 アメリカで「チャイナ狩り」が猛威を振るっている。「チャイナ狩り」とは、米ソ冷戦時代の「赤(共産主義者)狩り」のように、中国を標的にした「スパイ摘発」の嵐が吹き荒れているという造語である。
貿易戦争が激化するなか、米政府は中国が中国語教育の普及を目指してつくった「孔子学院」を「スパイ活動の拠点」とみなしてパージ(排除)。この一年半で、全米100以上の大学にある孔子学院15校が閉鎖に追い込まれた。
パージは、米連邦捜査局(FBI)長官が議会(2018年2月)で「孔子学院の一部が親中派の育成やスパイ活動に利用されている疑いがある」として、学院を捜査対象にしたと証言したのがきっかけ。証言と前後して、中国人研究者や留学生が「スパイ容疑」で拘束・起訴されるケースが急増した。
中国通信機器大手「ファーウェイ」の女性副社長が、昨年末カナダで逮捕されたのも、アメリカ政府の要請だった。イラン経済制裁に違反して金融機関を不正操作した容疑をかけられたのだ。
60年前の「赤狩り」で「共産主義のスパイ」として標的にされたのはアメリカ政府職員、科学者や作家だけではない。チャップリンをはじめ映画スターやシナリオライターが次々に議会に呼ばれ、「スパイ」のレッテルを張られ、社会から追放されていった。
中国人研究者や技術者のなかには、「産業スパイ」を「自白」したケースもあるが、冤罪もあるだろう。孔子学院が「スパイ活動」のために設立されたとみなす証拠もない。FBIは、中国人大学院生の電話の通話記録をチェックし、ソーシャルメディアのアカウントの調査も検討。電話の盗聴やPCへのハッキングも始めたとの報道もある。
アメリカは伝統的に「敵」がないと生きられないメンタリティをもつ国家・社会である。古くは西部劇における「インディアン」(先住民)。旧ソ連初の人工衛星「スプートニク」打ち上げ成功後の反ソ・キャンペーン。1980年代の日本バッシング(叩き)に「9-11」後のイスラム過激派―。
「敵」を挙げればきりはない。その理由についてニューヨークタイムズのコラムニスト、デイビッド・ブルックスは「アメリカ人は危険な外敵に直面していると気づいた時には団結する」と解説する。多民族、多言語、多宗教の移民国家は、「共通の敵」がないとまとまらないのだろうか。しかし、そう聞けば「自由の国」のイメージはかすんでいく。
国に限らない。特定の人に「敵」のレッテルを張り、他人に同意を求めて生きている人がいる。他人と「敵」を共有することで、自分のアイデンティティを保とうとする心理は分からないではない。しかし「標的」にされるほうはたまらない。(了)

オットット爺や

2019/06/01 | カテゴリー:オットット爺やのつぶやき

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