2011年11月−パキスタンの混沌、開けられたパンドラの箱、銃後の女たちの祈り

X月某日

 私より長くコタ・キナバルに住んでいる一長期滞在者が電話してきて、最近友人と自費出版した本、氏原やすたか・波勝一廣著『知られざる素顔のパキスタン』(共栄書房)を寄贈したいというので喜んで受けた。彼は大手建設会社の技術者としてアジア各地でODA事業に関わり、そのうち11年半をパキスタンで過ごし、サバ州でもダム建設などに携った。

 パキスタンは、インド文明圏からイスラム文明圏への玄関口だが、他のアラブ諸国同様に部族の掟が優先されて近代国家の体をなしておらず、野蛮な刑罰も、自由恋愛への残酷な仕打ちも、極端な男女差別も存在し、児童労働問題では、いつもモデルにされる。とにかく荒っぽい国で、軍情報部がタリバンを創設し、オサマ・ビン・ラーディンを匿ったり、核兵器を持ったりする。そんな国ながら、著者の日常生活面での苦労や戸惑いについては、同じ元イギリス領のマレーシアで、私が経験したことと重なる点が多くて苦笑を誘う。

X月某日

 私が28年前にサバ州に来た時から、山奥の町でもパキスタン人はよく見かけた。膝まで届く長い上衣とダブダブのズボンの、シャワルカミスという白ずくめの服装をし、小さなイスラム帽を被って鬚を伸ばした、一見ヨーロッパ人のような風貌の彼らは、自転車で村々を回って布類を行商していたが、今は自動車で行商したり、町に店を構えたりしている。

 1998年にパキスタンは核実験を実施して7ヵ国目の核兵器保有国となった。原爆材料を同国に不法に持ち込んだのはカーン博士ではなく、実際はフランスの会社などが関わる闇取引であり、その会社が日本から運んだ核廃棄物からプルトニウムを抽出して、1992年に青森県六ヵ所村の再処理工場に運んでおり、パキスタンの核兵器開発に日本が関係していることが、広瀬隆『パンドラの箱の悪魔』(NHK出版)で指摘されている。この本では他に、オリンピックの舞台裏、金とダイアモンドの価格設定の欺瞞、核融合の不可能性、顕在化した環境ホルモンの影響など、人類が開けてしまったパンドラの箱の恐怖が説かれている。

X月某日

 我が家の近くに、現地人の妻の妹の娘、つまり姪の夫の家族が中華料理の屋台を店先に出していて早朝から賑わっている。たまに行くと姪の舅がいて、先の戦争の話をよくする。彼の村は、日本軍占領時代に軍票(軍事占領地用の貨幣)造幣所があり、多くの日本軍が駐留し、亡くなった。当時彼はまだ子供だったが、大人たちから常に話を聞いていた。

 村には依然多くの日本軍兵士の遺体が眠っているので、いずれ掘り起こして、彼らの無念を晴らしてあげたい。森南海子『千人針』(情報センター出版局)は、出征兵士の妻や母、恋人などが、無事な帰還を祈って、学校、職場、街頭などで多くの女性に呼び掛けて一針ずつ糸を通して玉結びにしてもらって兵士たちに持たせた、普通は手拭い状で主に腹巻に使われた特殊な編み物「千人針」を、戦後に元兵士や遺族たちから譲り受けた際の印象深い話を綴った本である。銃後の女性の立場に立つ筆者の反戦論は、戦争賛美の保守派の論点とは当然反対だ。私は反戦論は理解するが、情緒で通らない現実の厳しさも直視したい。

三好良一

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