2012年6月−世界を征服する条件、天空と地球上の記号、謙虚さ=卑屈さ?

X月某日

 1980年代の終わり、サバ州の山奥のケニンガウで、当時住んでいた日本人が私一人だったある日、日本人の文化人類学者と知り合った。彼はケニンガウより更に奥地のインドネシア国境近くのムルット族の村に住み着いて研究をしていた。彼はその後、マラリアで死にかけながらも、数年にまたがって研究を完成させ、日本のさる大学の教授にまでなった。

 熱帯雨林地帯のサバ州と違い、南アフリカ共和国の北のザンビアにはカラハリ砂漠が広がる。マーク&ディーリア・オーエンズ『カラハリ』(早川書房)、このカラハリ砂漠に1974年から7年間、粗末なテントを張って住み着き、ブラウン・ハイエナの研究に従事した夫婦の記録である。水も食糧も乏しく酷暑で、ライオンなどの猛獣が徘徊する過酷な環境のなかで研究の一念に燃えて耐え忍ぶ姿は驚異的だが、彼らが属するゲルマン人種の肉体的・精神的強靭さが世界を征服した所以だと、つくづく思わざるを得ない。彼らは後に複数の組織から資金援助を得て、最終的には自家用飛行機まで所有して研究を完成させた。

X月某日 

 5月最終の30、31日は、サバ州最大多数民族カダザン族の収穫祭の休日で、彼らにとっての正月だが、イスラム教の太陰暦、中国の太陰太陽暦みたいな天文学的な根拠はなく、現在世界中で使われている太陽暦グレゴリウス暦から、適当な日付を選んだに過ぎない。

 各種の暦、時間や距離の単位、緯度・経度などの制定過程に限らず、各惑星や衛星、星座などの発見や命名の由来、度量衡や元素記号などの記号や名称がいかに体系化されてきたかを、ユーモアを交えてわかりやすく解説しているのが、アイザック・アシモフ『時間と宇宙について』(ハヤカワ文庫)。高名な科学ライターだった彼の科学エッセイ・シリーズの一巻で、わかりやすい彼の文章は文系親父にも読み易く、生前に雑誌『ニュートン』の巻頭評言を書いていた頃にファンになった。実は、本稿の各日付の文章の、日常の話題から話を振って本題に移っていく書き出し方は、彼のエッセーの手法を借用しているのだ。

X月某日

 コタ・キナバルの海岸沿いの、ホテルや各国レストランが並び、欧米人観光客が多い一帯には、昔から漁師、貝殻細工の商人、非合法移民等、多くのフィリピン人が定着している「リトル・マニラ」で、水商売には彼らが多い。フィリピンは先の戦争の激戦地だった。 

 フィリピンに少尉で従軍し、辛くも生還した故山本七平の『一下級将校の見た帝国陸軍』(文春文庫)、日本陸軍の「員数(いんずう)主義」という、辻褄さえ合えば実質は問わない組織体質が、非現実的な戦争遂行と敗戦の根本原因だったことがよくわかる。彼の約40年前の変名著作『日本人とユダヤ人』以来の、日本人の精神病理に関する分析に、私は啓発され続けている。この本で胸にグサッとくるのは彼の収容所体験で、欧米人捕虜たちは自主的・平和的に秩序をつくり出すのに、日本人捕虜は当初バラバラで、誰かが暴力支配に乗り出した途端に恐怖による秩序が生まれるとの指摘だ。大震災で各国から賞賛された日本人の謙虚で規律ある行動は、実は権威にへつらう精神性の裏返しではなかろうか。

三好良一

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