2016年8月−未来を見てきた男、 世界の農業の歴史

5月から6月にかけて入院していた。昨年から何度か入院していたが、今回は一ヵ月近く入院してしまった。その間、鼻から胃へチューブを通して流動食を注入する経管栄養法を施され、まるで鼻をロープに繋がれた牛のような気分だった。私は過去サバ州の山奥とクランタン州のコタ・バルで入院した経験があるが、医療の技術も体制も格段に進歩した。ただ、分厚いタオルケットを巻き付けていないと凍え死にしそうな冷房地獄とまずい病院食、痛い注射に改善を期待する。

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有名なSF小説家H・G・ウェルズの『タイムマシン』は、科学技術文明礼賛の明るい未来を描いた楽天的な小説だろうという私の予想は完全に覆された。逆に、科学技術が頂点まで発展して人類の理想を実現した後の人類の退化を予測している。主人公は80万2701年のロンドンに着いたのだが、そこで見たのは身長は1・2メートル止まりで、知能もこども同然で、白い布1枚をまとい、果物だけを食べている未来人だった。また、このエロイと呼ばれる未来人が恐れている、同様にモーロックと呼ばれる低身長で白い肌で夜行性の人類もいた。エロイは裕福な階層の子孫で、モーロックは労働者階級の子孫なのだ。モーロックは仕事もせずに優雅に暮らすエロイの服など、基本的な生活物資を生産して供給しているが、時折エロイを捕らえて食料にする。だからエロイは大きな建物に皆で住み、そこで食事を摂り、寝る。
つまり、長い間に階級が固定し、両階級の形態まで変わっていったのだ。基本的な生活物資は満たされ、気候も現代よりはるかに温暖になっているために労働も学問もしなくなり、伝統としてモーロックが引き続き生活物資の生産を担当しているわけだ。彼らは電気はおろかマッチも知らず、主人公がマッチを擦ると驚いて逃げ去ってしまう。モーロックは主人公も襲うが、主人公はその都度マッチによって危機を逃れる。
主人公はその後、10万年超の未来に行くが、太陽が膨張して人類は絶滅し、巨大な蝶や蟹が住んでいるだけの不毛の世界だった。


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サバ州の山奥で稲作担当の農業指導員をしていた頃、毎日のように草取り作業でヒエばかり抜いていた。中尾佐助著『栽培植物と農耕の起源』によれば、ヒエやキビ、アワなどの雑穀を主食にしている地域は世界に多く、イネや小麦も元々雑穀の一種だった。雑穀栽培をするのはサヴァンナ農耕文化が発展した地中海農耕文化に属している。
人類最古の農耕は1万年前のメソポタミアにおける小麦栽培というのが通説だが、実際にはマレー半島の真ん中のクラ地峡で発生したバナナ栽培のようだ。これがポリネシアに伝わり、ヤムイモ、タロイモ、パンノキらと複合した根菜農耕文化を形成した。インドからアフリカにかけては雑穀栽培がさかんになったが、それから小麦栽培がメソポタミアから地中海地方に伝わり、地中海農耕文化を形成し、イネ栽培は照葉樹林地帯に伝わった。新世界では、トウモロコシ、カボチャ、ジャガイモ等を主体とする新世界農耕文化が広まった。
著者の中尾佐助京大教授は、ネパール東部から中国の雲南地方を経て西日本に至る照葉樹林文化を提唱した人物である。

三好良一

2016/08/05 | カテゴリー:コタキナバル読書日記

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