マレーシア最新芸術事情 2019年9月-イセのこと

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イセのこと

Roslisham Ismail a.k.a Ise(ロスリシャム・イスマイル/イセ)というアーティストがいました。イセと呼ばれる彼は、クランタン州出身のマレー系で、体はずんぐりと大きく、いつも派手な斜めがけのメッセンジャーバッグと太縁の厚底眼鏡をかけて、KLの様々な美術シーンを訪れる有名人でした。芸術界のなかでも、特に民族や使用言語による溝が深いように思われる美術界。でも彼は、マレー系の集いのみならず、中華系しか集まらないような展覧会のオープニングやイベントなどにも臆することなく足を運び、皆と仲良くなって、民族の壁をひょいひょいと跨ぐことができてしまう人でした。
そのフットワークの軽さは、マレーシア国内のみにとどまらず、インドネシア、タイなどの周辺国から、日本、韓国、フランス、オーストラリアと、いろんな国へ羽ばたいていきました。
そんな彼の人間力と観察力を用いて、文化、歴史、階層、社会等を反映した作品や作風は、一見とてもポップながら非常に深く鋭く切り込み、海外からも注目されていました。現代社会における人々の生活様式を、6家族それぞれの冷蔵庫の中身で表現したシンガポールビエンナーレでの出展作品「Secret Affair」(秘密の情事)、高級品にあふれたKLCC周辺のギャラリーに、自分が暮らすパンダン・インダの郵便受けに毎日何枚も差し込まれるサラ金のチラシのコラージュでNEPと綴った「New Economic Policy」(新経済政策)、クランタンのおばあさんたちを訪ねてインタビューし、古代ランカスカ王国の食事を再現、そのプロセスとレシピをまとめた「Langkaska Cook Book」など、愛すべき作品はまだまだたくさんあります。
そんな彼が2017年に設営のために来日を予定していた、東京での大規模な東南アジア展「サンシャワー:東南アジアの現代美術展 1980年代から現在まで」。その頃から体調を崩し、同展の設営も、その後に予定されていた前橋での滞在制作もあきらめざるを得ず、そこから海外へ出ることはなくなってしまいました。それでも「superfriends」と呼ばれる友人たちに助けられ、その後も作品の発表を続けていきます。
7月23日の朝、突然のWhatsappへのメッセージに言葉を失いました。それは、8時過ぎにイセが亡くなったというもの。私にマレーシアを好きになるきっかけを与えてくれた人が、また一人遠い所へ行ってしまいました。

アティカ

2019/09/01 | カテゴリー:マレーシア最新芸術事情

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