2018年12月-113回 ミナミハコフグ(その1) 


抵抗の大きい水中を泳ぐために多くの魚は扁平や紡錘形の方向に進化したが、「水の抵抗が増しても構わない! ボクはこれが好きだ!」と、言ったかどうかは知らないが、アンコウやフグなどポッチャリ体型で進化した魚も少なくない。この代表格がハコフグ科の魚だ。
名前の由来になった四角い身体は、発達した骨板が精密に組み合わさって板状になったものに覆われているのだが、この板状の身体は非常にかたく、包丁を使ってもなかなか捌くのが難しいほど。身体のかたさでは魚のなかでトップだろう。五島列島では腹側だけくりぬき、四角い身体を入れ物代わりにして網焼きにする郷土料理がある。ぽっちゃり体型でもメタボではないのだ。
2016年にメルセデス・ベンツがハコフグ科の一種、ミナミハコフグ(Yellow boxfish)の形状を手本にしたコンセプトカー、「バイオニック」を発表した。抵抗係数の低さと骨組みの頑丈さを狙ったものらしいが、実際のところミナミハコフグの身体は安定性が悪く、スピード遊泳はうまくない。このメルセデス「ハコフグ・カー」もクルマという縛りがあるためか残念ながらコンセプトで終わった。
スピード遊泳は苦手でも、狭いサンゴ礁や岩の間で生活するには悪くない。中世の騎士の鎧を想像して欲しいが、ハコフグの四角い胴体は柔軟性がゼロ。身体をくねらせて泳ぐことができないので、さして長くもない尾びれと胸びれをちょこまか動かしてゆっくり移動するだけだが、柔軟性がゼロの胴体に比してこのひれの部分の柔軟性はスゴい。尾びれなどはほぼペタッと身体に付けられるほどだ。紡錘形の魚では難しいその場での方向転換などは朝飯前だ。寸詰まりの身体に柔軟な推進機関といえば、どこかで見たことがないだろうか。そう、狭い港湾を自由自在に動き回って作業をするタグボートだ。タグボートと同じくハコフグは狭いサンゴ礁の岩の間を機敏に動き回ることができるのだ。(次号に続く)

伊藤祐介

2018/12/03 | カテゴリー:自然のはなし

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