2018年3月-104回 コブシメ


大人気のダイオウイカを自然の状態で見ることは難しいが、コウイカの仲間ならばダイビング中に出会えるかもしれない。
マレーシアのサンゴ礁でよく見かけるのは、体長が50センチメートルにもなるコブシメ(Broadclub Cuttlefish)。深さ5〜10メートル程度の中層にじっと浮いていたりする。
イカは皮膚の色素細胞の大きさを自由に変化させ体色を周囲に似せてカモフラージュすることができるが、中層にじっと浮いているときは透明に近い色になっているので案外見つけにくい。映画「プレデター」の異星人のように、輪郭がなんとか判別できるという感じ。慣れない人は数メートルの距離にいても気付かなかったりする。
カモフラージュ技術に自信があるのか、かなり接近しても逃げない。擬態型の動物はこういう傾向が強い。ヘタに動いて敵に気付かれたら元も子もないからだ。こうした動物がスタコラ逃走しなけりゃならない状況ならかなり深刻だというワケだ。
深刻な危機に陥った場合、スミを吐いて逃げるというのがタコやイカの仲間の常套手段。イカのスミはタコのスミと違って粘り気があって、水中で拡散しにくい。スミで自分の分身を作り、敵がそれに気を取られている間に逃げるという作戦だ。イカスミはスパゲティに使われるように食べてもおいしいが、これは粘り気の成分がアミノ酸などからできているためだ。
イカスミは古くはインクの代わりに用いられてきた。コウイカはイタリア語で「Seppia」という。インクが変色して褐色になった状態を「セピア色」というが、これは昔、イカスミがインクとして使われていたことの証拠である。
コウイカは数ある無脊椎動物のなかでも全身に占める脳の比率が最大であり、知能は高いといわれる。残念ながら寿命は1年ほど。もし何十年も生きることができたら、もっと面白い姿を見せてくれただろう。

伊藤祐介

2018/02/27 | カテゴリー:自然のはなし

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