2018年5月-106回 アリタケ


前回は巨大なオオアリを紹介したが、今回はそのオオアリを脅かす存在、アリタケ(Ophiocordyceps)だ。このキノコの仲間は、なんと生きたアリに寄生して操ることから「ゾンビ・キノコ」とも呼ばれている。
冬虫夏草をご存知だろうか? 漢方薬とか薬膳料理に使われるもので、イモムシから柄状のものがニョキッと飛び出た形をしている。これは地中で成長する蛾の幼虫にキノコの一種が取り付いて幼虫の身体を乗っ取ってしまったものだ。柄状のものは「子実体」という胞子をつくるための器官で、僕たちがふつうキノコと呼んで食している部分にあたる。
アリタケはこの冬虫夏草の一種なのだが、ふつうの冬虫夏草と違ってタダではオオアリを殺さない。
アリタケの胞子がオオアリに付くと、胞子が成長すると共にやがて体内に侵入する。アリはやがてフラフラと草の上に登るようになり、大きなアゴで葉を噛みしめたまま昇天する。アリタケはアリの死骸から子実体を伸ばす。この子実体から胞子がバラまかれ、また別のアリに取り付いて増えるのだ。
驚くのは、このオオアリの行動はアリタケが自分に都合のいいように操った結果だということだ。草の上に登ったのはアリタケの生育に最適な湿度や温度、かつ効率よく胞子を仲間のアリにバラまくのに最適な場所に行ってもらった結果で、草を噛みしめて死ぬのも死んでから落っこちないようにアゴの筋肉に働きかけた結果だというのだ。
なお最新の研究で、アリタケはアリの身体を占拠し行動を支配するものの脳まで支配していないことが分かった。脳を支配せずにどうやって行動を支配しているのか、メカニズムはまだ分かっていないという。
僕もジャングルを歩いていて、葉っぱの上で不思議な格好で死んでいるオオアリを何度もみたことがある。頭からタケコプターが伸びたようでマヌケな死に方だなと面白がっていたものだが、こんな恐ろしい仕組みがあったのだ。

伊藤祐介

2018/04/26 | カテゴリー:自然のはなし

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