2019年1月-114回 ミナミハコフグ(その2)  


前号で書いたように、ポッチャリ体型で進化したミナミハコフグ(Yellow boxfish)は、素早く泳げるスリムな身体の代わりにかたい身体で身を守ることを選んだ。寸詰まりの身体と柔軟なひれは狭いサンゴ礁や岩の間では小回りが効いて都合がいい。こうした狭い場所には、ハコフグを一口で飲み込むような大型の肉食魚は入れないので安全に暮らせるのだ。
しかし身体がミニマム級で成魚ほど頑丈でもない幼魚にとっては、岩の間に入って来れるほどの小型サイズの魚も十分脅威だし、間違ってガブッとひと咬みされただけでも致命傷になる。ノロノロとしか移動できないハコフグの幼魚はどうやって敵を防ぐのだろう。
実はハコフグ科はフグ科のような猛毒テトロドトキシンを体内にもたない代わりに、ストレスがかかると皮膚から出す粘液毒をもつ。この粘液毒は同じ水槽に入れた魚を殺すこともあるほど。かたい身体と並ぶハコフグ科の武器がこの粘液毒なのだ。
しかしただの毒でも敵にアピールしなければ意味はない。そこで生きてくるのが幼魚の派手な体色だ。ミナミハコフグの成魚はくすんだ黄色地にぼやけた青白い水玉模様だが、幼魚は鮮やかな黄色地にくっきりした黒の水玉模様。派手な体色で短い胸びれをちょこまか動かして泳ぐ幼魚はおもちゃのようで、おかげでミナミハコフグはダイバーの間でたいへん人気のある魚となっている。この目立つ色は「食べたら死ぬぞ」と敵に示すもので、警戒色とか警告色といわれるもの。決してダイバーを喜ばせるためではないのだ。
防御力が弱く敵に襲われやすい幼魚は目立たないのに越したことがないので、一般的に幼魚の姿はみつけにくい。幼魚の姿が長らく目撃されていなかったという魚も少なくなく、なかには親子で別種の魚だと認識されていたケースもある。ミナミハコフグのように幼魚の方がよく知られている魚は珍しいのだ。

伊藤祐介

2018/12/27 | カテゴリー:自然のはなし

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