2019年6月-120回 ホタル


ホタル(Firefly)は世界全体で約2千種、マレーシアには29種生息しているといわれる。クアラルンプール周辺で最も有名なホタル群生地が、クアラセランゴールのセランゴール川下流域だ。ここで一番多くみられるのは、プテロプティクス・テネル(Pteroptyx tener)という恐竜のような学名のホタル。ホタルと言えば日本では初夏だが、年がら年中暑いマレーシアでは年中通してみることができる。
この種のホタルは、発光周期がシンクロする傾向がある。最初はバラバラに光っているホタルの点滅がだんだん揃ってくる。発光周期はヒトの心臓の鼓動よりいくらか早いくらいで、日本に広く分布するゲンジボタルよりはるかに早い。ゲンジボタルの場合、中部地方を境に東日本の個体はおよそ4秒、西日本の個体は2秒だといわれるが、温度が関係するらしく、実験で温度が上がるに連れて発光間隔が短くなることが分かっている。種は違うが、マレーシアのホタルの発光周期も温度が影響しているのだろうか。
マレーシア森林研究所(FRIM)が2006〜07年にセランゴール川で実施した調査から、降水量が少ない月の3ヵ月後にホタルの成虫の数が減少することが判明した。ホタルのライフサイクルがまさしく3ヵ月であり、降水量が少ない時期に繁殖活動が減るのは間違いないようだ。
発光する生物というのは珍しいから、「kelip-kelip(瞬き)」とか「api-api(火)」と呼ばれるように、マレーシア各地で様々な伝説が残っている。サラワク州のルンバワン族の間では、ホタルが囲炉裏に飛び込んできたら翌日はイノシシ狩りで獲物が期待できるとの伝承があるという。一方、セランゴール川周辺では、溺れ死んだ人の指の爪がホタルに変身したとの恐ろしげな伝説があるらしい。美しいホタルの神秘的な光に人魂のような薄気味悪さをみていたのだろう。

伊藤祐介

2019/07/01 | カテゴリー:自然のはなし

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