マラッカ海峡航海記(最終回)

帰路をエスコートしてくれたマレーシア海軍の巡視艇

生まれて初めてのボートレースに参加してきました。ランカウィからインドネシアのアチェまで、全行程2週間の豪華版(!?)船の旅。数日間苦しんだ船酔いからはじまり、アチェではいまだ未開拓のままの自然の美に息を呑み、帰途中は海上警察から足止めを食うなど、驚きの連続だった旅の思い出を記しました。

ウェー島に一週間滞在した後、出発することになり、その前夜は島あげての送迎会がありました。夕方にバスに乗り込み警察の誘導で会場のある島の中心地へ。会場周辺は全島民が集まっているのかと思うほどの人だかりでした。なんだか優勝パレードのようで、少し気恥ずかしくも感じました。長い間待たされた後、小さな花火が10分近く打ち上げられ、開会。再びサバン市長や来賓の長〜い挨拶。わがキャプテンはたまりかねて集まってきた子供たちの写真を撮り始めました。どうやら今回のレースは、近くある選挙のための票集めとして利用されたようで、自分たちがいかに島に貢献しているかを力説しているようでした。

 

◆◆恐怖の体験!おんぼろ漁船が近づき銃口を向けられる 

 遠くに海洋建造物が見えてきました。海底油田のプラットフォームだろうかと、近づいてみることに。すると長さ20メートルほどの船が近づいてきました。おんぼろ漁船のようで、乗組員は全員20代前半の若者。一人がキャプテンに話しかけます。「マリンポリス」と名乗り、「船に乗せろ」と言っているようです。キャプテンが動転し狼狽しているのが伺えます。

 キャプテンが何か言葉を発した途端、今まで隠していたマシンガンを一斉に構えました。驚いて身動きすることもできません。もちろん銃を向けられたのは生まれて初めてです。とっさにキャプテンが無線を取り、マレーシア海軍の巡視艇を呼び出して状況を説明すると、「すぐに迎えに来る」と応答してくれました。彼らは遅れているダック号を気にかけて近くにいてくれていたのです。その無線をマリンポリスのほうでも聞いていたのでしょう。急に態度を変え、「行け」と手で合図をしました。

 後で聞いた話ですが、インドネシアのマリンポリスは海上で船を見つけると、乗り込んで金目のものを奪うそうです。レーダーからGPS、挙句の果てにはエンジンをかけさせた状態で、バッテリーまではずして持っていくこともあるそうです。しかしどう見ても彼らの服装はマリンポリスではなく、本当に海賊だったかもしれませんが、今となっては知りようがありません。考えようによっては殺されても容易に完全犯罪が成立する状況でした。

 開放されてから巡視艇に報告すると、その回答が「お前の船には神風が乗っているんだろう。何をそんなにびびっているんだ」と笑い声が。神風とは私のことですね、きっと。その後また、「もう勘弁してくれレベル」の嵐に見舞われKLに戻るのを断念し、途中ルムットに上陸、ルムットからKLまで車で帰ってきました。家に着き体重を計ると5キロ減っていました。思い返すといろんなことがあり、40歳を過ぎてからは、これほど感情が動くことはもうないだろうと思っています。出会ったすべての人に感謝です。このレースの感想を聞かれたときには、いつもこう答えることにしています。

 「The most disgusting and beautiful days in my life.」

文・写真 水産放浪家 <プロフィール> 大学では水産を専攻したにもかかわらず、 船のことは何も知らない大たわけ。今回の 船旅ですっかり船の魅力に取り付かれ、将 来は自分のボートを購入するんだと実現不 可能な夢に取り付かれている。

2012/09/06 | カテゴリー:【連載終了】読者体験手記

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