2011年6月-ヤスデ

 
 僕がマレーシアで出会って感動した生き物は数多いが、その一つがヤスデ(Millipede)である。世界には1万種ものヤスデがおり、「タマヤスデ」というダンゴムシの親分みたいなのや、「ババヤスデ」という装甲車のようなユニークな輩もいるのだが、ここは指ほどの太さで全長が20センチ以上にもなる「マレーオオヤスデ」と和名で呼ばれる巨大ヤスデを代表に挙げよう。

 日本にいるふつうのヤスデが1〜2センチ程度であることを考えるといかに大きいかがわかるだろう。こいつがマレーシアのジャングルに行くと湿った場所ならどこにでもいるのだ。危険を感じると丸くとぐろを巻いて円板状になる。一見するとムカデに似ているが、ムカデが肉食なのに対してヤスデは腐葉土やキノコなどを食べるおとなしい生き物。もちろん咬みついたりすることはない。もう少し世間で好意的にみられてもいい生き物なのだが、脚がウジャウジャある外見が災いし視覚的に嫌われているようだ。ムカデが一つの体節から1対の脚が出ているのに対して、ヤスデは2対出ているので同じ体節の数ならば、脚の数は2倍あることになる(だから倍脚類という)。

 日本語の漢字表記はムカデが「百足」なので、ヤスデは「二百足」と書くかと思いきや「馬陸」と書く。「馬陸」は中国語源で、中国では「千足蟲」ともいう。しかし昔、中国でヤスデのことを「百足」と呼んでいたという話もあるのでややこしい。外見が似ているので昔の人が両者を混同していたことは十分考えられる。ちなみに英語名についている「Milli」はラテン語源で千を表すので、「千足蟲」はこれに倣ってできた外来の呼び名なのだろう。ヤスデの脚の数は最も多い種で750本ほどあるが全般的には数十本から400本程度なので、「千足」はちょっとさば読み過ぎだ。

 ヤスデの評判が芳しくないのには、全く人畜無害とはいえないという事情がある。2010年11月には大発生したヤスデが線路を広く覆ったために列車が運休したという事件が鹿児島県であった。ヤスデの油っぽい体液で列車の車輪が空回りして走れなくなったというのだ。またヤスデのなかには体内に青酸物質を溜め込んでいるものがあり、退治しようと熱湯をかけたり火で炙ったりするとガスが発生して気分が悪くなったりするという。油流しに毒ガス攻撃というのだから、これではまるで忍者のようだ。日本の小さなヤスデでもこうだから、マレーシアのオオヤスデをつぶしたらトンでもないことになるかもしれない。ここはやはり手の平の上で優しく遊ばせておく程度にしておこう。

伊藤祐介

2011/06/05 | カテゴリー:自然のはなし

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