オットット爺やのつぶやき 第151回 「寝そべり族」の反乱

オットット爺やのつぶやき

「寝そべり族」の反乱

「China-Café net」から

「996」で働き過ぎ 髪もだいぶ薄くなった 寝そべりこそ特効薬 出世競争で疲れ果て 社畜になり果てたオレ 寝そべりこそ王道だ~ 中国の若者の間で昨年大ヒットしたのが、「寝そべりは王道」と題するこの歌だ。

この30年急成長を続け、日本を抜き世界第2の経済大国へと発展した中国。しかしコロナ禍も手伝って高成長に陰りがさし、「踊り場」に差し掛かかっている。日本とは比べものにならない競争社会の中国で、「家や車は買わず、恋愛・結婚はせず、子どももつくらない」ライフスタイルを実行する若者を「寝そべり族」と呼ぶ。

冒頭の「996」とは、「朝9時から夜9時まで週6日間勤務」という意味だ。なんとなく「引きこもり」をイメージしてしまうが、「寝そべり族」は社会から孤立しているわけではない。経済的野心を求めず、経済的物質主義より心の健康を優先させるのが彼らの生き方だ。

「最低限の生活を維持することで、資本家の金儲けマシーンとなって資本家に搾取される奴隷になるのを拒否する」という主張から、「抵抗運動」と評する向きもある。1960年代後半、米国をはじめ先進国に登場した既成の価値観や性規範に反抗するカウンター・カルチャーの「ヒッピー」とも共通点がある。

「今が楽しければ、それでいい︒休みになったら家で寝そべるだけ︒毎日、スマホやパソコンを見て、ゲームで遊ぶの」NHKが昨年暮れ放送したドキュメンタリー番組で、中国のある地方の女子大学生が、「寝そべり」ぶりを淡々と話していたのは印象的だった。

中国の習近平指導部は建国100年にあたる2049年に、中国を「世界一流の社会主義強国」に発展させ、「中華民族の偉大な復興」を実現する夢を描く。その夢実現には経済成長を維持して、「日増しに高まる人々の新たな生活の質の改善」という要求に応えねばならない。

急速に進む高学歴化に伴い、中国では4年制大学の新卒者が今年昨年の2割も増える。一方、上海や北京でのロックダウン(都市封鎖)もあって求人が減り、若年失業率が20%に達するという試算もある。今年は中国版の「団塊世代」が60歳を迎え、大量退職時代が始まる。

崩壊したソ連を継承したロシアのエリツィン大統領が、孫の手を引いてマック1号店を訪問したことがある。ビッグマックを一口ほおばった大統領は、歯型のついたバンズを開いて、上からたっぷり食塩を振りかけた。

新規求人が増える要因なのだが、都市化が進んで大学卒業生の多くはホワイトカラーを希望し、工場労働者や店員は不足気味とされる。失業青年の「寝そべり」はリアリティを増している。共産党指導部が思い描く「中華民族の偉大な復興」を阻むのは、反政府デモなどではなく、スマホ片手の「寝そべり族」の反乱かもしれない。(了)

オットット爺や  プロフィール
1948年生まれ。通信社特派員として香港、モスクワ、台北などで報道。退職後は客員論説委員として国際政治を論じる一方、都内某大学で客員教授を務める。

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