2010年1月-自転車と成熟社会

自転車と成熟社会大学の授業の合間をぬって3日ほど台北に行ってきた。政府系シンクタンクが主催する中台、日台関係など国際情勢についてのシンポジウムに参加するためである。新疆ウイグル自治区のウルムチで流血事件が起きた時は台北にいた。

直に収まるだろうと高をくくっていたら、鉄パイプやこん棒で武装した漢民族集団が、ウイグル人狩りに向かう映像がホテルのテレビで大写しになった。上半身裸の若者、丸刈りにサングラスの屈強な男たちの姿は、まるでヤクザ映画を見るようだ。

台北中心部でも20数年前、毎日のように警察と民衆の衝突が繰り返されていた。1986年秋、国民党独裁に反対する人たちが非合法の野党「民主進歩党」を結成。違法デモや集会をして警察とぶつかり合いを繰り返した。集会場所は小学校の校庭が多かった。支持者や野次馬が集まると、どこから聞きつけたのか、校庭に必ず屋台が並ぶ。「政治は祭り」の実感。ソーセージを焼く臭いにおいがすると、今も違法集会の記憶がよみがえる。

当時台北はバイクでひしめき合っていた。急速な高度成長でモータリゼーションが始まったころだ。信号を無視して横断歩道に突っ込んでくるバイクの群れは恐ろしい。北京の自転車でも恐怖感を味わったことがあるが、バイクは排ガスと騒音付きだから迫力が違う。

台北でバイクの数がめっきり減った。10年前には「駐輪場」としてバイクが占有していた歩道は、今はすっきり本来の歩道に戻った。横断歩道でも恐怖感を感じない。バイクが急減したのは、地下鉄やモノレールの路線が延長され公共交通機関が充実したためである。おかげで地下鉄は、東京と同じく満員の乗客であふれかえるようになったが―。

浅草のような下町「萬華」に足をのばした。軒を連ねていたバイクの部品・修理店が、あっという間にブランド自転車店に生まれ変わっている。聞けば台北は今自転車ブームなのだそうだ。板張りのデッキにメタル・チェアが置かれた店先(写真参照)。オット、カフェと間違えたぜ。冷房がよく効いた店内には1台2〜30万円(日本円)もする高級ロードレース用がずらりと並ぶ。

台湾で新疆事件はどう報じられたのだろうか。有力紙の一面には「自転車の乗りすぎに注意 痔や生殖機能悪化も」の大見出し。自転車ブームに警鐘を鳴らす記事が大きく掲載され、ウイグルは国際面に押しやられている。街からランニングシャツと半ズボン、サンダル姿の「台湾オジサン」の姿は減り、自転車が似合う無機質な都会に変わった。北京との長い政治的対立・緊張に疲れ、協力と和解を目指す時代に入った台湾。自転車は、成長達成後の社会の成熟ぶりの象徴だ。急成長にともない国と社会のあらゆる領域できしみが目立つ13億人に、成熟の時代が訪れるのはいつのことになるだろう。

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