2010年5月-卒業旅行

 この春卒業した大学生を連れて台湾に行った。「卒業旅行」というやつだ。卒論と就活の重圧から解放された連中は、この時期遊びまくる。パリにホノルル、シドニー…。「誰と?」と聞けば「カレとでーす」と明るい声が戻ってくる。屈託なんかまったくない。

 故宮博物院をはじめ台湾各地の観光名所は、中国各地からの団体観光客に「占領」されていた。台湾と中国は、60年間にわたって敵対関係にあり、砲火を交えたこともあったが、国民党の馬英九政権が誕生して以来、大幅に関係改善し、週270便もの直航便が台湾海峡を往復するようになった。台湾への外国人旅行者のトップは、ずっと日本(年間百万人程度)だったが、今年は中国が日本を抜くのは確実だ。GDPと同じだね。

 日曜の午後「台北101」に来た。KLのペトロナス・タワーを抜いて、3年前まで「世界一高い建築物」だったビルの名称だ。おー、いたいた。中国からの観光客だ。おそろいのキャップ、旗を持った添乗員の後を集団行動しているから一目で分かる。数十年前の我々の姿とだぶって見えるのは爺やの世代だけか。重慶から来たグループに聞いた。6日間の台湾周遊の料金は一人5000人民元(約6万5000円)。みるみる豊かになっていく中国では、「小金持ち」の部類だろう。昨年はマイナス5%台の成長だった台湾経済にとって、中国からの観光収入はばかにならない。

 オーット、プラカードを掲げたオバサンが、観光客の前に立ちはだかった。中国で使う「簡体字」で「中国共産党を脱党した7000万人を祝う」とある。中国政府が「邪教(カルト)集団」と指弾する気功集団「法輪功」のメンバー。中国では活動できないが、台湾での活動は自由。大陸の観光客に共産党による弾圧の実態を知らせ、「法輪功」に勧誘しようというのだ。

 中国観光客は、オバサンと目を合わせないよう見ぬふりを決め込んでいる。彼らは概してお行儀がよい。「(中国人は)あたりかまわず大声を出し、タンを吐く」という悪評をはね返すべく、グループ内の「規律」はけっこう厳しい。台湾旅行中に行方不明になると、受け入れた旅行社に、一人あたり10万台湾元( 約30万円)の「罰金」が課せられる。「法輪功の勧誘に乗せられた」なんて評判がたつと、帰ってから何を言われるか分からない。

 人の自由な移動と交流はよいことだ。中国政府が、米インターネット検索大手のGoogle にいくら規制をかけても無駄である。政府が奨励する台湾観光に参加すれば、国内ではお目にかかれない「法輪功」のオバサンにも出会うし、Google でいくらでも自由に検索ができる。政治が築いた壁を簡単に崩すのがグローバル化である。帰国直前、学生とともに旧知の元台湾政府高官と会った。彼は中国との関係改善を評価する一方で「交流が深まれば深まるほど、共同体意識が芽生えるが、同時にお互いの差も目立って見える。中台関係は複雑なのだ」と解説した。社会に巣立つ学生達に、少しは役立つ旅行になっただろうか。(了)

オットット爺や

関連記事

コメントは利用できません。

アーカイブ

ページ上部へ戻る