2013年2月-雪と鬱

成人式の朝、首都圏で初雪が降った。昼前から降り始めた雪は、吹雪きながら夕方までに8センチも積もった。横殴りの雨はごめんだが、雪となるとは気分は結構ハイになる。降り始めは特にきれいだ。こどもだけでなく、大人まではしゃいで雪合戦で歓声を上げ始めた。

かくいう爺やは北海道の豪雪地帯に生まれた。「根雪」になれば積もった雪で一階の玄関から出入りできず、2階の窓を出入り口にしたこともある。山間地にあった故郷では、馬車がまだ貴重な輸送手段だった。馬が蒸気機関車のように鼻息を荒々しくはき出しながら重いそりを引く。馬車が通った後は、大人のこぶしほどもある茶色の馬糞が雪の上で湯気を上げていたのを、臭いとともに記憶している。

こんな話をすると、マレーシアではさぞかしうらやましかろう。雪景色を見に北海道まで観光に来るマレーシアンやシンガポーリアンの気持ちはよおく分かるぜ。でも北国の世界はそんなにロマンチックじゃない。ソ連が崩壊した直後のモスクワに3年住んだ話をする。

通学途中、雪に足をとられ転倒した高校生(TV画面から)

短い夏が終わり9月末になると雪が舞い始める。空が白み始めるのは朝9時過ぎで、午後3時ごろになれば外は闇に包まれる。日照時間はわずか6時間しかない。これが翌年の3月頃まで続く。真っ暗な朝、ミルクとパンを求めて、オーバーの襟を立てて行列に並ぶ姿を想像してごらんよ。気分はとってもブルー。青空なんて見えたためしはない。

こうなりゃアルコールに走りたくなる。日本との時差はマイナス6時間。朝刊締切り間際の夜7時ごろには、ビールのロング缶が3本ぐらい空いていたね。緯度の高い地域で鬱病患者が多いのは、住んでみれば納得できる。ドストエフスキー作品の登場人物の多くが憂鬱を抱えて生きているのが、モスクワに来て初めて理解できた。

クレムリンに近い繁華街を歩いていた。少し前の歩道で、二人の中年男性がもつれ合い絡み合っている。殴り合いの喧嘩をしているように見えた二人が、ドサッと雪の上に倒れた。雪がみるみる赤に染まる。鮮血だ。近づくと倒れた男の手にはしっかりウオツカの瓶が握られている。喧嘩じゃない。したたか飲んで酩酊状態になった挙げ句、アイスバーンの歩道に足をすくわれたのだった。二人はそのまま雪道の上でいびきをかき始めた。

モスクワはこの冬、厳しい寒さで年末にかけ約60人が凍死した。凍死といってもイメージはつかめないと思う。酩酊してそのまま雪の中で寝て死に至るケースが多い。ロシア男性の平均寿命はそのころ、50歳台半ばだった。(了)

オットット爺や

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