2014年5月-解放区に入った

 さながら「解放区」だった。アスファルトの路上に直接敷かれた布団にテント。少し汗ばむ初夏の陽気の中、ガジュマルの樹の下で青空集会が開かれている。周囲のビルの壁には馬英九総統を茶化したマンガや、与党、国民党批判のスローガンがびっしり。そう、ここは台湾大学生が占拠した台北中心部の立法院(国会)だ。

 占拠の理由は、馬政権が、中国と署名した両岸のサービス貿易協定を強行採決したことへの抗議。従業員が5人以下の零細企業が8割を占める台湾で、雑貨店、ファストフード、パン屋、文具、理髪などを中国に開放すれば、中国の大資本に太刀打ちできなくなる…。

 でも、なぜ当局は強制排除せず、4月11日に撤退するまで23日間も占拠できたの? それは、議会承認を早く取り付けたい総統と、慎重な王金平・院長(国会議長)の与党内対立に乗じたから。だから王院長は、排除命令を出さなかった。

 議場に入る幾つかの門は、学生や若者が入り口を「自主警備」、その奥を警官と機動隊員がガードしている。まさに「二重権力」の風景。「日本の記者」と告げ、身分証明書を見せるとあっさり中に入ることができた。学生によると、記者の出入りを許可しているのは、強制排除の歯止めになるから。

 空調が回復したせいか、汗くささや悪臭は一切ない。議場の横にある部屋は機動隊員のたまり場。中では制帽をあみだに被った警察官が、弁当をかき込んでいる。横の廊下を、おそろいの黒いTシャツ姿の占拠学生が忙しそうに行き来する。取り締まり側と棲み分けする「ゆるーい空気」。台湾の政治文化か。

 香港から駆けつけた27歳のボランティア青年に話を聞いた。香港では日系企業に勤務していたが、クビになったばかりの「プータロー」。「中国がすべて悪いと言っているわけではありません。強行採決したことが問題」「占拠という学生の行動は違法だけど、非暴力に徹し中は秩序が保たれています」。

 彼は、台湾では混乱が満ちているように見えるが「正直言ってうらやましい」とも付け加えた。それはそうだろう。手の届かないところにあった政治が、いまや自分の手で触れることができ、さらにそれを動かせる実感が得られたのだから。香港では得られない実感。

 解放区の空気はどこも似ている。かつて「全共闘運動」で大学を占拠した「爺や」も、北京の天安門広場を埋め尽くした学生たちも、つかの間だったがその実感と解放感を味わった。でも「祭り」はいつか終わる。多くは血が流れたが、台湾学生は妥協案を受け入れ平和的にキャンパスに戻った。なかなかの成熟ぶりじゃないか(了)

オットット爺や

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