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マレーシア最新芸術事情 -2022年4月 Jit Murad について
- 2022/4/1
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マレーシアでの生活をスタートさせた20年前、私の知るマレーシアはガイドブックの中に見る世界に限られていました。その後たくさんのお芝居や映画、TV番組などを通して新しいものに触れ、少しずつ学んでいきましたが、それらに携わる人々が、きれいな英語のみならず、他の言語も巧みに操りながらマレーシアの物語を語るその才能と多様性そして柔軟性に、「あぁ、なんかもう全然かなわないなぁ」と感嘆のため息をついたものでした。そしてそんな風に感じさせた人のなかに、2月12日に62歳で亡くなったJit Muradがいました。
自由奔放でウィットに富み、聡明で美しい彼は、劇作家、そして役者として、当時のマレーシア演劇界で光り輝く存在でした。もっとも私は、恐れ多くてただただ遠巻きに拝見するだけではあったのですが。彼の最も有名な戯曲の一つ『Spilt Gravy on Rice』が上演されたのが2002年8月8~25日。残念ながら私がマレーシアに移ってきたのが8月27日。その後新しい戯曲は発表されなかったように思いますが、2017年に戯曲集『JIT MURAD PLAYS』が出版され、2019年にはその本にも収録されている彼の最初の戯曲『Gold Rain and Hailstones』が再演されました。自由で歯に衣着せぬアメリカ帰りのエイミーと、彼女よりも先に海外留学から戻り、それぞれの生活を営む親友たちとの対話から、マレーシアの社会に属することの苦悩をユーモアを交えながら描いたこの作品は、特に都会に住むマレー系の事情を如実に映し出し、連日大盛況でした。
俳優としての彼もまた素晴らしく、舞台のみならず映画やテレビドラマにも数多く出演していましたが、そのなかでも強く印象に残っているのが、故ヤスミン・アフマド監督作品『Talentime』。ギターの弾き語りをする男子学生ハフィズの入院中の母親のもとに車椅子に乗って現れる不思議な男性の役でした。彼がその母に苺を差し出すくだりは、優れた役者二人によって演じられた、悲しくもとても美しいシーンでした。
そして前述の『Spilt Gravy on Rice』、舞台を演出したザヒム・アルバクリが監督した映画版が今年劇場公開されるとのこと。この作品、実は2011年の制作ですが、検閲の問題から今までその公開が先延ばしになっていたのだとか。Jit氏本人も登場する同作の上映は、きっと良い弔いの機会となることでしょう。
アティカ プロフィール
あっという間に在マ歴18年。外見も中身もだいぶマレーシア化してきている自分に驚かされている…
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