2015年2月-マレーシア最新芸術事情

『カンポンボーイ』を改めて読んで

 7月号で東京ブックフェアでのマレーシア特集のお話をしました。このブックフェアでのハイライトの一つは、漫画家ラット氏『カンポンボーイ』の日本語新訳版のお披露目でした。同作は、もともと原作が英語で描かれており、1984年出版の日本語版『カンポンのガキ大将』はそのオリジナル英語版を訳したもの。今回の新訳版は、英語版に書き換えや修正がなされたマレー語版からの日本語訳となります。

 『カンポンボーイ』といえば、マレーシアを代表する作品。マレーシア人で知らない人はいないと思います。でももしかしたら、多くのマレーシア人、特に若い世代の人たちの知る『カンポンボーイ』とは、アメリカで制作されたテレビシリーズのことを指し、原作をきちんと読んだことがある人は、意外と少ないかもしれません。

 十数年前に私が初めてマレーシアにやってきたときも、まず読むべき書物の一つとして多くのマレーシア人から薦められ、日本語版を読んだことがあります。素晴らしい作品であることは理解しながらも、自分の知識と経験の浅さから、それほど読みこなせていなかったかもしれません。そしてその後は、テレビシリーズを中心に鑑賞。楽しいお話というイメージが私の中に残っていました。

 時は経ち、マレーシアにもかなり馴染んだ今、改めて、じっくりとこの新訳版を読んでみました。ページをめくるごとに、私の主人が話してくれた彼のこどもの頃の話が重なっていきます。今は茶色になってしまった実家の裏の川は、昔は水が澄んでいてみんなで水浴びをしたこと、隣の家のおばさんのコーラン塾では厳しくてよく叱られたこと、村の人たちがみんなで夜通し踊って楽しかった結婚式の話など、実際に経験したわけでもないのに、自分の思い出のように蘇ってきます。

 東京で生まれ育った私には決してめぐり合うことができなかった貴重な体験を、開発が進みながらも、まだかつての習慣が少し残っている主人の田舎で経験することができている我が家のこどもたちは本当に幸せだなぁと改めて感じつつ、もうこれ以上失われて欲しくないと、強く願い、涙しながら本を閉じました。

アティカ

関連記事

コメントは利用できません。

アーカイブ

ページ上部へ戻る