自然のはなし-137回 ヨナグニサン

自然のはなし

ヨナグニサン

 世界に何千種もいる蛾の仲間でも、大きさと美しさを兼ね備えた蛾の王様と呼ばれるのに相応しいのがヨナグニサン(Atlasmoth)だ。

翅を全開にした場合の開長になると30〜35センチメートルにもなり、蛾の仲間では世界第2位の大きさだ。メスよりオスが小さいがオスの触覚は2センチもあって、メスより太く長く、メスが出すフェロモンを探知するのに役立っている。

東南アジアや南アジアなど広い地域に生息しており、日本でも沖縄県与那国島などに生息する。英名の「Atlas」は大きいことを示すもので、ギリシャ神話に出てくる巨人からとられた。マレーシアにもいる巨大カブトムシ「アトラスオオカブト」も身体が大きいという意味で名付けられたのだ。

ヨナグニサンの美しい翅だが、前翅(頭寄りの2枚)の両先端部分はくびれており、目のような黒い点があってまるで鎌首をもたげた茶色いヘビのような模様となっている。この模様は後翅まで続いており、ヘビに擬態しているといわれる。ヘビの頭模様は表側だけでなく裏側にもあり、翅を開いて止まっても閉じて止まっても相手から見えるようになっている。

先日、このヨナグニサンのオスが珍しく僕のうちのベランダに飛んできた。あまり元気がなく、そうしているうちにほとんど動かなくなってしまった。

実はヨナグニサンの成虫は口が退化しており、エサをとることができない。つまり成虫になってからは内蔵バッテリーのように体内に貯めてあるエネルギーのみで活動し、エネルギーが切れれば死ぬ。よって成虫の寿命はわずか1〜2週間。この短い間に交尾の相手を捜して最後の生のエネルギーを使い尽くすのだ。

僕のうちに来たヨナグニサンはすでにエネルギーを使い尽くしていたらしい。こうなると僕にはしてあげられる事は何もない。サッシの扉を開けたままにして、好きなところに飛んでいけるようにしておいたのだが、翌朝には観葉植物につかまったまま息絶えていた。カラフルなパラソル姿に風情のある名前がつけられたイバラカンザシは、一見すると海藻のようにみえるが環形動物でゴカイの親戚だ。何の事情があったのかは定かではないが、磯や干潟を這い回るのが面倒になったゴカイが、サンゴの中につくられた部屋に引きこもりになったのがイバラカンザシなのだ。自由に動けるゴカイは魚などに食べられたり人間に捕まって釣りのエサにされてしまうので、自由がきかない引きこもりも悪くはないのかもしれない。

名前の由来になった2対のクリスマスツリー型の部分は鰓冠(さいかん)と呼ばれる器官で、エサを漉しとったり酸素を取り込むエラの役目も果たす。円錐型に見えるが実は螺旋形をしており、これが学名の由来となっている。手でバタバタ煽って水を送ってやると、この鰓冠が反応して素早く引っ込むのだ。

本体部分はサンゴの中に収納されている。体長は5〜7センチメートルほど。一見するとサンゴに穴を空けて自分の部屋を作っているようにみえるが実際は反対で、サンゴに定着した後、石灰質の部屋を作りその周囲にサンゴの外骨格を成長させる。いわばサンゴという分厚い防弾チョッキを身に纏っているわけで、決してサンゴを傷つけているわけではないのだ。

イバラカンザシの鰓冠の色は赤、青、黄、緑などバラエティに富む。茶色が最も多く、黄、紫、橙、白、赤が多いといわれる。鰓冠の色がなぜこれほどバラエティに富んでいるのかは、実はまだよく分かっていないらしい。確かにこれではカモフラージュにはならないからきっと何か別の意味があるのだろう。

伊藤 祐介  プロフィール
動物学者になりたかったのになぜか卒論は「老子研究」。在馬20年目。海外放浪歴も、ついに32年!

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