自然のはなし-142回 ハリナシミツバチ

自然のはなし

ハリナシミツバチ

ハチといえば、毒針を持って相手を刺すものと思っている人がほとんどだと思うが、なかには毒針をもたないハチもいる。マレーシアを含む熱帯・亜熱帯地域に生息するハリナシミツバチ(Stingless honey bee)がそれだ。マレー語ではクルルート(Kelurut)と呼ばれる。

ハリナシとは言うもののまったく毒針がないわけではないようだが、退化してしまっていて防御用の武器としては使えない。では非武装の平和なハチかといえばそんなことはなく、ちゃんと自衛用の強力なアゴを持っている。アゴからは蟻酸を含む分泌物が分泌され、咬まれると水ぶくれをおこして痛む。ふつうのミツバチのような縞模様はなく、からだはやや小さい。

通常は木の幹の空洞部分や地面の空洞などに巣をつくる。ミツバチの巣はご存知のように一つの区画に幼虫が一匹ずつ入る六角柱の巣が繋がった形状だが、ハリナシミツバチの巣は独立した丸い卵形の容器に一匹ずつ入る形となっている。この丸い容器が多数集まって巣を作っている。丸い形は強度があるのでデザインとしてはなかなか合理的だと言えるだろう。樹脂の容器はまるで映画「エイリアン」の卵のようだ。つぶつぶが集まった様子はトライポフォビア(集合体恐怖症)の人にはダメだろう。

このハリナシミツバチも、セイヨウミツバチやニホンミツバチのようにハチミツを採集するために養蜂家に飼われている。このハリナシミツバチのハチミツは「クルルート・ハニー」と呼ばれ栄養価が高く、高価で取り引きされる。からだが小さく移動範囲も狭いため収穫量が少ないのだ。

栄養価が高いハチミツといえば、「トゥアラン・ハニー」と呼ばれるオオミツバチ(Giant honeybee)のハチミツが知られる。しかしハリナシミツバチのハチミツはビタミンC、タンパク質、ポリフェノールの含有量がオオミツバチより高く、抗酸化作用も高いという。

「クルルート・ハニー」は酵素によって自然発酵する。常温だとすぐに酸っぱくなるので冷蔵保存が必要だが、そのまま炭酸水や水で割るとコクのあるハニーレモンのようで美味しい。

伊藤 祐介  プロフィール
動物学者になりたかったのになぜか卒論は「老子研究」。在馬20年目。海外放浪歴も、ついに32年!

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