2011年12月-テナガザル

 タマン・ネガラなどのジャングルを早朝歩いていると、語尾を上げるような「ホーワ、ホーワ」というテナガザル(Gibon)の声が響き渡る。声を上げてなわばりを確認しているようで、鳴き声をまねるとしばしば反応してくるので面白い。

 たまに「どこのどいつがオレ様の縄張りに勝手に入ってきたのか」と仁義を切るため(?)近くにやって来ることがあるが、だいたいはジャングルの高いところにいるので声はすれども姿は見えずということが多く、まるで声のブッポウソウだ(ブッポウソウの声の主は実は赤の他人のコノハズク)。

 飼育されているテナガザルを何度か抱かせてもらったことがあるが、あの細いからだを包むフワフワの毛は非常に細く、やわらかな綿毛のようで気持ちいい。湿度の高いジャングルで暑くないのかとも思うのだが、よく考えてみるとジャングルの夜は案外冷えるし、細身の身体は体温を逃がしやすそうだ。同じ種の動物でも寒冷地ほど大型化するというベルクマンの法則は、裏を返すと小さいものほど体温維持が難しいことを示している。雨水の浸透を防ぐ意味でも、あの綿毛のような毛がいいのかもしれない。その証拠に小型のサルは例外なく綿毛のような柔らかい毛をしている。

 僕はフィリピンでメガネザル、マダガスカルでネズミキツネザルといったリスかネズミのように小さい原始的なサルを何種類か触らせてもらったことがあるが、いずれも体毛がふわふわだった。体温維持のための綿毛状の毛は彼らにとって必要なのだ。テナガザルは小型で腕がやたら長い外見から下等な霊長類と思われがちだが、実はヒトやオランウータンと同じ類人猿だ。たまにその姿格好からクモザルと混同する人がいるが、系統的にはクモザルは新世界ザルであって他人の空似にすぎない。同じような生活環境に置かれたために似た方向に進化したわけだ(収斂という)。見た目で最も違う点はテナガザルが尾を持たないのに対して、クモザルが腕のように巻き付けることができる長い尾を持っている点だ。もう一本の腕を持っているようなものなので、木登り競争をさせたらテナガザルはクモザルに負けるかもしれない。木登り巧者どうしでどちらが勝つか、誰かに是非実験してもらいたいものだ。

伊藤祐介

関連記事

コメントは利用できません。

アーカイブ

ページ上部へ戻る