2020年 1月-126回 ダツ

ヒトに危険を及ぼす可能性のある魚として以前、メカジキを紹介したが、メカジキと同じくその鋭く尖ったクチバシが恐れられているのがダツ(Needlefish)だ。 ダツはトビウオやサヨリと同じダツ目の魚で、大きいものでは体長1メートル以上になる。ダイビングでは水面辺りを群れているところに出くわすことが多いが、細長く白っぽい体色が空の色に溶け込んで気付きにくい。ゆったり漂っていることが多いのであまり危険な感じはしないのだが、獲物を見つけたり危険を感じると細長い身体で素早く泳ぐ。泳ぐスピードは時速60~70キロメートルにもなるという。 尖ったクチバシは槍のようなもの。2007年にはベトナム・ハロン湾で16歳の少年がダイビング中に全長90センチのダツに突進され、心臓をひと突きされて死亡。2018年にはタイ東部トラ―ト県で23歳のタイ海兵隊員がノド元を突き刺されて死亡する事故があった。 いずれのケースもダツが突然泳ぎ回った結果、誤ってヒトにぶつかったもので、ダツがヒトを突き刺そうと思って向かって来たわけではないらしい。これはダツの光に向かって行くという習性が関係する。エサとするのがもっぱら小魚なので、小魚のウロコが光にあたってピカピカ光っていると勘違いして突進するのだと考えられている。ナイトダイビングで水中ライトを使う場合には特に注意を要する。ライトは腕を延ばして身体から離して持つのが鉄則だ。 以前よく一緒にダイビングしていた「コマセ」とか「撒き餌」と呼ばれていた、船酔いしやすい友人がいた。彼女は潜りはじめると復活するのだが波に揺られていると途端にダメで、海面待機中に度々嘔吐するので、小魚がゲロを食べようと集まってくるのだ。 彼女のケースでは小魚だから群れで突進されても平気であったが、突進してくる相手がダツだったらこうはいかない。きっと彼女のあだ名は「撒き餌」ではなく「串焼き」になっていたであろう。

伊藤祐介

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