ぼくちゃん

 広東語で、「阿仔(アチャイ)」とは、「坊や」とか「ぼくちゃん」という意味で、親しい小さな子どもを呼ぶ時、中華系の人はこの愛称をよく使う。英語とミックスさせて「阿BOY」と言うこともある。「阿(ア)」は、「~さん」よりもっとくだけた総称で、どっちかといえば「~ちゃん、~くん」の意味合いが強いと私は思う。私は夫の親戚に「阿利秀」と呼ばれるので、「利秀ちゃん」と親しみを込めて呼ばれているのだと解釈している。中国系の名前は、漢字二文字の名前が多く、名前の下のほうの漢字の前に「阿」をつけたり、英語の名前に「阿」を付けて呼ぶこともあり、大人同士でも親しい間柄では「阿〇〇」と呼び合うのだ。

 ビザの手続きの代理業務をしてくるおっちゃんの名刺には「Ah Fatt」と英語で刻まれている。ビジネスカードに自ら「ファットちゃんで~す!」と書いているようで笑える。

 私の夫は末っ子長男で、待望の男子であったから、家族を含む、親戚一同から「阿BOY=ぼくちゃん」と呼ばれ育った。30歳を過ぎ、180cm近い大型、肉付きも良く、髭を生やしたおっさんなのだが、未だに「阿 BOY」と呼ばれ、私は「阿 BOYの奥さん」とよばれることもしばしば。

 夫の実家付近で買い物をすれば「阿 BOYの奥さん、今日は何を買いにきたの?阿 BOYは元気?」と話しかけられる。すると、横で聞いていた別のお客さんが「阿 BOYって、あの阿 BOY?へぇ~、日本人と結婚したんだ!」と、私を無視して、夫の昔話に花を咲かせる始末。これは、結婚してからなんども何度も経験したこと。いい加減慣れたけど、子どもを連れてSCで買い物をしていたり、レストランで食事をしている時でさえ、昔馴染みの人が夫をみかけたら、遠くから「阿 BOY!!」と大声で寄ってくる。周囲の人は私の息子のことと思っている様子だが、夫が話しはじめると、「お前かい!!」と鋭い目線でツッコミを入れられる。まぁ、こんなこと中華系の人にとっちゃぁ、日常茶飯事なんでしょうけど、私はちょっぴり恥ずかしい気分になってしまう。だって、だって・・・。このおっさんが「ぼくちゃん」なんだもの・・・。

 こないだ、夫が親戚の伯母さんに電話をかけていた。電話に出たのは伯母さんの孫。夫は「ハロー」と言ったまま押し黙っている。親戚の立場によって一人一人呼称が異なる中国語。夫は伯母さんの孫から見た自分の呼び方がわからなくて、名乗れず硬直してしまったのだ。しばらくして言い放ったのは「アンタのおばあちゃんの『阿 BOY』だけど、おばあちゃんに換わって!」あちゃぁ~。10歳の少女に向かって、33歳のおっさんが自分のことを「阿 BOY」と名乗ってしまった!ま、それが一番わかりやすいから仕方がないのだが。

 私のなかでは、「阿 BOY=私の夫」という図式がこの8年間でしっかり根付いている。先日、近所の肉屋に買い物に行った。いつもは週末に夫と子どもを連れて買出しに行くのがが、その日は急なお客さんがあり、私1人で店に入った。お店のおばさんは「あら~、今日は1人!阿 BOYはどこ?」と聞いてきた。私は、「あ、今日は、彼、仕事なんだ」と答えると、おばさんは一瞬、目が点。「仕事?学校でしょ?」  そ、そうや…。この肉屋さんは息子が生まれてからの付き合い。彼女にとって「阿 BOY」は私の息子だったのだ…

利秀

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