2010年8月-困った居候

 清々しい朝、まるで日本の初夏のよう。澄み切った空、心地よく体に触れる涼風。昼にはカラッと晴れ渡りそうだ。まさに洗濯日和。3階のベランダに出て洗濯を始めようとした時、視界に違和感が。目の前に無数の黒い斑点が蠢いている。なんだろう? そばによって目を凝らしてみると、そこには蜂の大群が!前日の夕方は何もなかったのに、たった一晩で蜂がせっせと巣作りをしたのだ。そっとドアを閉め、さっそく夫に電話した。ぶ〜ん、ぶ〜んと羽の音が耳について離れない。

 昼過ぎ、夫が義母と共に戻ってきた。蜂の数は増えている。神仏具店で購入した線香を束にして火をつける。モクモクと煙が上がり、蜂は方々に飛び去っていった。ものすごい光景だった。しばらく様子をみていると、だんだん線香が燃え尽きていく。それと同時に蜂達がどんどん舞い戻ってきた。失敗だ。

 もう一度、今度はもっと大量の線香を燃やし、蜂を追い払う。蜂は大慌てで逃げていく。昇っていく灰色の煙を、夫、義母、私で眺める。すると、横から息子の一声。「あれ〜、蜂さん帰ってきたねぇ〜」ギョッとして、3人の大人が息子の目線を追ってみる。ヤツらは飛び去るどころか、風向きを考慮し、煙が当たらない軒先へ移動、再び巣作りをしていた。人間、自然の力に完敗である。

 「害虫駆除業者に連絡してはどうか」と提案してみる。引っ越してきたばかりのころ、白アリが発生し、今でも定期的に検査にくる業者がいるので、そこに連絡しようかと。夫は養蜂場がいいんじゃないかと言う。すると、義母が「ボンバよ、ボンバ!」と主張する。BOMBA= 消防署である。え?消防署? なんで? とにかく、マネージメント兼ガードハウスのおっちゃんに相談することにして自力駆除をあきらめた。

 おっちゃんはすぐにボンバに連絡してくれた。マレーシアで蜂騒動は珍しいことではないらしく、駆除は消防署の担当らしい。昼間は蜂の目が見えるので、夜9時ごろ、蜂の視界が悪くなるころに、消防員を派遣するとのことだった。夕方、夫は再び帰宅した後、ベランダに出て広東語で何か言っている。「蜂さん、ウチにはまだ小さい子供がいるから、他所に巣を作ってな〜。もうすぐボンバが来るから、それまでに逃げてな〜。」家に蜂が巣を作るということはとても縁起のよいことなんだそう。だから、夫は蜂に感謝しつつ、駆除が行われることを知らせたのだ。

 夜9時。外がやたらと賑やかになる。小型のバンで2、3人の消防員がやってくるかと思っていたら、とてつもなく大型の消防車が我が家の前に停まった。近所は大騒ぎである。消防車からオレンジの迷彩服を着た消防隊員が総勢8人出てきた。いよいよ駆除開始。夫のつぶやきが聞こえたのか、若干蜂の数が少なくなっていた。1人の消防員が「殺虫スプレー貸して」と言う。彼はスプレーを蜂の巣めがけて噴射しながら、胸ポケットをごそごそ。取り出したライターで放火! あっという間に蜂と巣は燃えてなくなった。「おおぉ!」と大歓声が沸き起こった。大型消防車に乗り、何一つ道具を持たずにやってきた無防備な消防隊員8人にお礼をいい、我が家の一大事は幕を閉じた。

利秀

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