2010年9月-猫山王

 7月の半ばから8月にかけ、マレーシアでは南国フルーツの王様ドリアンがシーズンを迎える。通りにはリアン屋台が立ち並び、独特の匂いが街中に広がる。もちろん、3ヵ月ぐらいのローテーションで年中手には入るのだが、この時期が一番おいしいと聞く。南国アジアといえばドリアン! マレーシアは一番を誇る品質だと、マレーシア人のドリアン好きは胸を張って言う。マレー語の「Duri =棘」が名前の発祥であるように、ドリアンはマレーシアを代表する「果物の王様」なのだ。

 我が家の場合、ドリアンは大好きなんだが「3度の飯より冷えたビール」を愛する夫と私の日常から、なかなかドリアンを食べる機会には恵まれない。ドリアンには20種以上の揮発成分と数種の硫黄化合物が含まれている。まるで果物火山だ。アルコール、特にガスを含むビールと同時摂取すると胃の中に気体が充満し、耐え切れなくなった胃が大爆発! 症状が酷ければ、無残にも胃が破裂して死に至るという。…嘘です。ごめんなさい。実際に、同時摂取による死亡事故の噂話は聞くが、直接の死因がそれであったとの医学的解明は未だになされていない。とはいえ、体験者は口を揃えてこう言う。「お腹がパンパンに張って苦しい」とか「気分が悪くなる」とか。夫の知り合いには、黒ビールとドリアンで体に痣ができ、5年ぐらい消えなかったという話も…。真偽はさておき、ドリアン&アルコールは昔から合食禁とされるのだからそれに従うに越したことはない。

 2年前、ちょうどドリアンシーズン真っ只中であったその時、夫の友人Fがおもしろい企画を組んでくれた。「世界で一番旨いドリアン食べ放題! ドリアン紀行」だ。無類のドリアン好きである私の父が来馬していることを知り、Fの故郷であり、高品質ドリアン「猫山王」の産地であるBentong を案内してくれたのだ。「猫山王」は普通のドリアンに比べると小ぶりだが、その味、驚くなかれ。こってりと濃厚な舌触り、アルコール風味が上品に漂うカスタードクリームのような味わい。最高だった。おっちゃんが次々に開くドリアンをガツガツと頬張る一同。お土産に3つ購入しBentongの街を後にした。それからというものドリアンを食べる機会がますます減った。Bentong 産の「猫山王」以外、食べる気にならなかったのだ。

 先月、Fが久しぶりに里帰りした。チャンス! ドリアンを買って来るようにお願いした。約束通り、10個ほどドリアンを買ってきてくれた。1キロ18リンギ。週末、日本人の友人夫妻2組とドリアン通であるM嬢を招きドリアン祭を開いた。ポットラックで、ジャージャー麺、ニラレバ炒め、手作り餃子を持ち寄り集まった。軽めの夕食のはずが「がっつり! 部活帰りの男子高校生メニュー」となり、男性陣をはじめ、私もビールを飲みたくなってしまったが、ここは我慢、我慢。夕食が済み、いよいよドリアンオープン!

 ドリアンのお尻に薄っすらついた線に沿って中華包丁で殻を割り豪快に手で裂く。「おぉ〜!」との歓声を号令に各々ドリアンを食べ始める。「これは旨い!」と、声が上がれば、皆の手がその一粒に集まり試食。果物の女王マンゴスティンを食べ、水出し碧螺春(中国緑茶)を飲んでほてりを冷ましながら、ドリアンを平らげていく。酒宴さながらの盛り上がりにドリアンパワーを感じる楽しい宴であった。

 さて、残ってしまったドリアンは密封して冷凍保存したのだが…。毎夜の晩酌にすっかりその存在を忘れ去られたドリアン王子、寒々とした冷凍庫の中で今か今かと出番を待ち受けている。

利秀

関連記事

コメントは利用できません。

アーカイブ

ページ上部へ戻る