2020年6月-きのこのなぐさめ

 きのこグッズには目がない。ころんと愛らしくカラフルなきのこ。長男は幼い頃からシイタケ、シメジ、エリンギ、エノキ、マイタケ、マッシュルームに至るまで、きのこ全般が大好き。きのこが入っていれば好き嫌いなくなんでも食べた。未だにその習慣が残り、我が家の食卓に並ぶ野菜炒め、味噌汁、カレー、ハンバーグはきのこ入り。そんなわけでうちの子たちは「日本料理=きのこ入り」と思っているかもしれない。

 昔、タンジュン・セパッにあるきのこ農園で、きのこ博士と呼ばれる女性に会った。「うちの子はきのこが大好きで、一日1種類はきのこを食べる」と私が言うと、「あなたの子は病気知らずでしょ?それはきのこのおかげよ」と、きのこ女史。確かに我が子達は病気をほぼしない。疲れが溜まって発熱することはたまにあるが、風邪や胃腸炎などの流行り病は、3人とも生まれてから数回しかかかったことがない。真偽はさておき、私のきのこ愛にますます拍車がかかった。

 きのこ好きを知る友人が教えてくれたのが『きのこのなぐさめ』だ。昨年8月に日本語訳が出版。私は「きのこ」というワードだけでなく、著者に強く興味をもった。ロン・リット・ウーン(以下ロンさん)は、ノルウェー人と結婚した中華系マレーシア人だからだ。

 ロンさんは18歳でノルウェーに留学、夫エイオルフさんと結婚後も当地に暮らし続ける社会人類学者だ。地方自治体の部長職、男女平等センターの理事を経て、夫と共にワークショップの企画運営を行うコンサルタント会社を立ち上げたが、ある日突然、夫が帰らぬ人に。深い悲しみと絶望に、生きる気力を失いかけた彼女はふと思い出す。夫と参加しようとしていた「きのこ講座」のことを。最愛のパートナーを失った悲しみが癒えることは決してないが、彼女はきのこについて学び、発見し、語らい、疑問を呈しては自分なりに解釈しながら、多くの人に出会い、対話し、考えることで、生きる楽しみを再発見していくのだ。さすが社会人類学者とあり、きのこそのものの学術的な話はもちろん、講座に参加するきのこ愛好家の性質や気質、きのこ学の現状と功績など、彼女のフィルターを通して分析し結論づけていく。きのこ講座での体験と夫エイオルフさんと歩んだ半生を交えながら、人類学、心理学、哲学的要素を随所に盛り込みながら話は展開していくのだ。人間関係に悩んだり、理不尽な思いをしたり、喪失感に襲われてくじけそうなったとき、『きのこのなぐさめ』は、私の道しるべとなってくれるような気がする。この先何度も読み返すであろう。おいしそうなきのこのレシピもいい。

 東洋に生まれ育った中華系マレーシア人と西洋のノルウェーという国に根付く文化と風習。その大きな違いと葛藤もユーモアたっぷりに描いている。

 私と夫はアジア人同士だが国際結婚をした。中華系マレーシア人と一緒暮らす私は、「わかる~!」と半ばマレーシア人として共感できることも多々。読み終えると、ここ最近で一番感銘し、穏やかな気持ちになった。何より訳者2名の日本語チョイスが抜群で読みやすいことも、この本が好きになった大きな理由。

 高イビキにイラっとし、横で眠る夫を蹴り飛ばしつつも「いつもありがとう」と、感謝できるのも、この本のおかげだ。

利秀

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