2018年9月-ミス・ヤップの積年のミス

 夫と結婚した15年前、私は携帯電話の番号を換えた。以来、今の番号を使い続けている。
番号を換えて2、3年経ったある日、普段あまり鳴らない私の携帯が、ひっきりなしに鳴った。掛け主のほとんどは中国語、ときに英語、まれにマレー語を話す。掛けてくるのは毎回違う人だが内容は同じ。「ミス・ヤップ、不動産投資しませんか?」、「ミス・ヤップ、新しいコンドのローンチパーティーに来てください」、「ミス・ヤップ、所有物件を賃貸しませんか?」など。
察するに、電話の掛け主は不動産エージェントやディベロッパーの広報、一方「ミス・ヤップ」は、多くの不動産物件を所持する投資家かその代理人で、このミス・ヤップが、新聞広告だかバナーだかに、私の電話番号を誤って掲載したのが事の発端であろう。
数日間は電話対応に追われるも、しばらくすると問い合わせはなくなる。しかし、またどこかに私の番号が掲載されると、ミス・ヤップを探す人々から電話が殺到するのだ。
彼らは、電話が繋がると同時に自前の営業トークを展開し、電話の相手が誰なのかなんてお構いなしに、30秒~1分ほどしゃべり続けるのだ。つまり、私は一連の話が終わるまで、「私はミス・ヤップじゃない」と切り出せないのである。
“Sorry, but it’s wrong number."
間違い電話を被っているにもかかわらず、「すみませんがね、どうやら間違い電話ですよ」。自分で言うのもなんだが、それなりに丁寧に指摘する。間違い電話を掛けてしまったことが発覚すれば、「失礼しました、すみません」と謝るのが筋ではなかろうか。
ところがだ! ミス・ヤップを探す人々は決まって、「Huh? Who are you?(は? アンタ誰?)」と言いやがるのだ!
これには毎度カチンとくる。「いやいや、オマエが誰やねん!」と、日本語でツッコミを入れ、留飲を下げようとするも、彼らは引き下がらない。「ミス・ヤップ、中国語を話せますか?」と中国語で聞いてくるのだ。「いや、あたしゃ、ミス・ヤップではないのだから、中国語は話せませんよ!」と語尾を荒げ、英語で反論する。すると、「広東語は?」と追い打ちをかけてくるのだ。だ~か~らぁ~!! 私はミス・ヤップちゃうねん「NO!!」ときっぱり言い放つと、「OKOK~!!」と言いながらフェイドアウト。彼らはようやく電話を切るのだが…。
「OKOK」ってなんじゃい! おかしくないかい? 詫びの一言もなしに、私の貴重な時間を返せ! まったく、このやり場のない憤りをどこにどう納めてよいのやら。
気づけば、この戦いが始まって早15年。年に20回ほど、ミス・ヤップを探す礼儀を欠いたルーキー達と、このやり取りをしている。自分で自分に問い合わせの電話を掛けることは決してない。掛け主はミス・ヤップ本人を知る者ではないし、私はもちろんのこと、ミス・ヤップの連絡先を知るすべもない。
故、いまだ間違いに気づかないミス・ヤップ。15年間、彼女はどれほどのビッグビジネスを逃しているのだろうか。会いたい。会って伝えたい。「ミス・ヤップ、電話番号間違ってるで!」と。

利秀

2018/08/28 | カテゴリー:KLのらりくらり徒然草

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